肉代替食品を志向した大豆タンパク質含有ファイバーの作製
近年,世界的には人口増加による食糧不足が進む一方,国内ではダイエット志向によるタンパク質摂取量の低下が社会的課題となっている.これらの課題を解決する手段として,植物性タンパク質を原料とした肉代替食品の需要が高まっている.
本研究では食肉の筋線維を模した大豆タンパク質含有ファイバーの作製を行った.大豆タンパク質,アルギン酸イオンを含有する紡糸液を塩化カルシウム水溶液中に吐出することにより,筋線維と同程度の繊維径を持つファイバーが得られた(図1a, b).
コレクターの回転速度により繊維径の制御が可能である.また,得られたファイバーは食肉と同程度の機械的強度,タンパク質含有率を有しており,食肉の食感,栄養価を高度に再現した肉代替食品への応用が期待できる(図1c).
シリカ-TEMPO酸化セルロースナノファイバー複合エアロゲルの断熱性能および機械的特性の評価
シリカエアロゲルはナノ細孔と高い空隙率を持ち,軽量かつ優れた断熱性能を示す.その反面,高空隙率であるがゆえに機械的強度が低いという欠点がある.本研究ではセルロースナノファイバー(CNF)にカルボキシル基を導入し水分散性を高めたTEMPO酸化CNF(TOCNF)を補強材として用いることで,シリカエアロゲルの機械的強度を向上させることを試みた.
前駆体ゾルにTOCNFを分散させ,ゲル化,超臨界乾燥によりシリカ?TOCNF複合エアロゲルを作製した(図2a).複合エアロゲルにおいて,TOCNF添加量の増加に伴い見かけ密度が若干増加し,平均細孔径が減少する傾向が見られた.
シリカ-TOCNF複合エアロゲルの熱伝導率は空気と同程度であり,TOCNFとの複合化が断熱性におよぼす影響が小さいことを確認した(図2b).また,3点曲げ試験により複合エアロゲルの機械的強度を測定したところ,TOCNF添加量の増加に伴い破断応力が増大する傾向が見られた(図2c).
高速冷却場での高分子結晶化における添加剤効果の解明
高分子成形プロセスでは,溶融した高分子を賦形すると同時に毎秒数?数千℃以上の高速冷却場で結晶化・ガラス化させて賦形している.従来の熱分析装置ではこの過程を詳細に調べることができなかった.しかし近年,MEMS技術を応用した超高速DSC測定装置が開発され評価が可能になった.
当グループでは,この装置を使って,高分子に様々な物質を添加した際の,実プロセス相当の高速冷却場での高分子の結晶化挙動に及ぼす影響について検討を行っている.
今年度は,ナノ材料である籠型シルセスキオキサン(POSS)をポリプロピレン(PP)に添加したナノコッポジットの結晶化挙動を調べた.過去の研究で,タルクや疎水化変性セルロースナノファイバー(CNF))などを添加した場合,40℃以上の温度域にて不均質結晶核生成が促進される核剤効果が発現することがわかっていた.
POSSを添加すると,高温域では結晶化促進効果を,低温域では結晶化遅延効果を示すという特異な現象がおこることを見出した(図3).この効果により,高速冷却場でのPPの結晶化温度範囲を広域化することができる.すなわち,POSSのようなナノ材料の添加で,高分子結晶化挙動を制御できる可能性が示された.
近赤外分光法による化学物質濃度モニタリング手法を用いた低圧発泡射出成形プロセスに関する研究
発泡射出成形プロセスの成形安定性向上は大きな課題の一つである.しかし,現状では射出直前の状態の発泡剤濃度の計測手法すら存在しておらず,そのためフィードバック制御を行うことができない.
我々は射出成形機先端に耐熱耐圧近赤外プローブを接続することで,溶融樹脂中に溶解した物理発泡剤(CO2)濃度をオンライン計測する装置と手法の開発に取り組んでいる.市販されている近赤外プローブでは射出成形機の先端部に印加される100 MPa以上の圧力に耐えられず,簡単に破損してしまう.
我々は,射出成形機で120 MPa, 210℃の成形条件下で繰り返し使用しても性能低下しない耐圧耐熱近赤外プローブを開発した(図4).
このプローブを発泡射出成形機先端部に取り付け(図5),近赤外分光光度計と接続し,溶融ポリプロピレン(PP)中の発泡剤(CO2)濃度の計測を行った.
図6に示すように,ガス消費量から計算した発泡剤濃度に対して近赤外吸光ピーク強度は線形関係が存在し,近赤外分光計測により発泡剤濃度をオンライン測定することが可能になった.本手法を用いることで,発泡剤濃度のフィードバック制御のみならず,発泡射出成形プロセスの装置設計や操作条件の最適化などの応用が期待できる.