2017テーマ

セルロースナノファイバー・ポリプロピレンのナノコンポジットの高倍率発泡射出成形

これまで,二酸化炭素や窒素を用いたナノオーダの微細な気泡径を持つ発泡体の量産技術の確立を目指し,コアバック式発泡射出成形による発泡体の作製,構造制御に関する研究を進めてきた.

本研究では,植物由来の軽量な補強用繊維として注目されているセルロースナノファイバー(CeNF)を,高い歪み硬化性を有する長鎖分岐ポリプロピレン(LCBPP)に添加した,LCBPP/CeNFナノコンポジットのコアバック発泡射出成形により、発泡倍率21倍という超高発泡倍率射出成形体の作製を実現した.

また発泡倍率15倍まではセル構造を維持することができた.従来のアイソタクチックポリプロピレン(iPP)単体での最大発泡倍率が10倍であること,気泡構造が連通化していたことと比較して,大幅に発泡性が向上したことを示唆している.これは,CeNFの添加により結晶化が促進され,微細な気泡核が生成したことに加え,LCBPPの歪み硬化特性により気泡壁の伸長が抑制されたためであると考えられる.

京都大学材料プロセス工学研究室

図1 LCBPP/CNF 5 wt.% 10倍および21倍発泡体(発泡射出成形で世界最高)の断面可視像とSEM写真

酸化/還元場分割型光触媒マイクロリアクター

近年,光の照射効率の向上,反応器体積当たりの光触媒面積の増大を目的とし,流路壁に光触媒を固定化したマイクロリアクターが開発されている.

当グループでは片側に光触媒を固定化した金属板の両側に平板型流路を作製し,酸化/還元場を2つの流路に分割できる光触媒マイクロリアクターの開発を行っている。

光触媒側流路への光照射により正孔と電子が生成し,電子が金属板を経由してもう一方の流路に移動することで,光触媒側流路で正孔による酸化,金属側流路で電子による還元が選択的に進行する(図2a).

本年度は窒素ドープにより可視光応答性を付与したチタニアを光触媒に用い,光触媒側流路でクエン酸の酸化,金属側流路で鉄(Ⅲ)イオンの還元を実施し,可視光照射下で酸化/還元が異なる流路で進行することを確認した(図2b).

京都大学材料プロセス工学研究室

図2 (a)開発したマイクロリアクターの概略図,(b)金属側流路における鉄(Ⅲ)イオン還元反応率と滞留時間の関係

水処理高分子膜の形成シミュレーション

本研究では,水処理用高分子分離膜の代表的な製法の一つである非溶媒誘起相分離(NIPS)法を対象に,多孔構造形成メカニズムの解明,プロセスの最適化,新規材料の探求,などを計算機シミュレーションで行っている.

今年度は、高分子の粘弾性を含む新たな相分離モデルを構築し,シミュレーションを行った.その結果,高分子の弾性により,界面張力による相分離ドメインの変形が抑制され,細孔がより小さく複雑になることが示唆された(図3).

京都大学材料プロセス工学研究室

図3 DSAによる非周期パターンの作成 (a) シミュレーション結果(赤: PMMA,青: PS), (b) 実験データ(PMMA除去後の断面SEM画像)

近赤外分光複屈折イメージング法の開発

近赤外カメラに分光器を組み合わせた近赤外分光イメージング装置は,材料内の化学情報の二次元分布を,迅速かつ非侵襲に,撮影する手法である.この手法に偏光子を組み合わせることで,化学情報に加えて,材料の光学物性である複屈折を同時に取得する手法を新たに開発した.

本手法を用いてポリスチレン(PS)射出成形体内の評価を行った(図4).吸光度から計算した試料の厚み分布(Lambert則)は,厚さ2 mmの試料中の約0.1 mmの凹凸を可視化することができた.また射出条件により成形体内の複屈折分布が大きく変動することを見出した.

京都大学材料プロセス工学研究室

図4NIR複屈折イメージング法で撮影したPS射出成形体内の吸光度分布,複屈折分布,方位角分布.それぞれ,試料の厚み,残留歪みの大きさ,樹脂流動方向の分布を示す.