2016テーマ

セルロースナノファイバー・ポリプロピレンのナノコンポジットの高倍率発泡射出成形

これまで,二酸化炭素や窒素を用いたナノオーダの微細な気泡径を持つ発泡体の量産技術の確立を目指し,コアバック式発泡射出成形による発泡体の作製,構造制御に関する研究を進めてきた.

本研究では,植物由来の軽量な補強用繊維として注目されているセルロースナノファイバー(CeNF)をアイソタクチックポリプロピレン(iPP)に添加した,iPP/CeNFナノコンポジットのコアバック発泡射出成形により、発泡倍率18倍という超高発泡倍率射出成形体の作製を実現した。従来のiPP単体での最大発泡倍率は10倍であり、CeNFの添加がPPの発泡性を大幅に向上させることを示した。

iPP内に分散したCeNFは、コアバック方向の気泡壁に沿って配向しており,iPPの結晶に注目すると,CeNFを核としたハイブリッドシシケバブ構造とiPPの古典的なシシケバブ構造の両方の形成が確認された。CeNF近傍で局所的に樹脂の溶融強度が向上したことが,PPの発泡性が劇的に向上した要因だと考えられる.

京都大学材料プロセス工学研究室

図1 18倍発泡体(発泡射出成形で世界最高)

チタニアナノチューブアレイを用いた光触媒マイクロリアクター

近年,光の照射効率の向上,反応器体積当たりの光触媒面積の増大を目的とし,流路壁に光触媒を固定化したマイクロリアクターが開発されている.ここで,固定化する光触媒にナノサイズの構造を付与することで,表面積の増大,光触媒層内への拡散性の向上により光触媒性能の向上が期待できる.本年度は金属チタン板の陽極酸化によりチタニアナノチューブアレイを固定化した基板を作製した(図2a, b).これを流路壁とした光触媒マイクロリアクターによりp-ニトロフェノールのアミノ化を行った.陽極酸化時間によるチタニアナノチューブの表面積,長さの増加に伴い,リアクターの性能が向上することが確認できた(図2c).また,流路内の拡散と光触媒層外表面での0次反応を仮定したモデルにより,p-ニトロフェノール反応率の滞留時間に対する依存性を良好に表現できた。

京都大学材料プロセス工学研究室

図2 (a, b) チタニアナノチューブのSEM像,(c)マイクロリアクターによる光触媒実験結果およびモデルによるフィッティングカーブ

ポリマーの相分離を用いた微細加工プロセスに関するシミュレーション

本研究では主に,ポリマーの相分離現象を利用した微細加工プロセスについて,モデリングやシミュレーションを行っている.本年度は,10nm以下の電子回路製造への応用が期待される「ジブロック共重合体の誘導自己組織化(DSA)」プロセスを対象に,DSAの非周期パターン作成への応用やX線小角散乱データを用いたナノパターンの構造解析について検討した.従来のDSAでは周期パターンしか作成できないが、基板に対して垂直方向と平行方向に配向したラメラ構造を同時に形成させることで,非周期パターンも作成できることがシミュレーションと実験により示唆された(図3).また構造解析では,Reverse Monte Carlo手法を用いることで,X線小角散乱データを再現するナノパターンの断面形状が効率よく予測できるようになった.

京都大学材料プロセス工学研究室

図3 DSAによる非周期パターンの作成 (a) シミュレーション結果(赤: PMMA,青: PS), (b) 実験データ(PMMA除去後の断面SEM画像)

高速冷却場でのポリプロピレン(PP)結晶化挙動に対するセルロースナノファイバー(CeNF)添加の影響

近年,高速チップカロリメトリ(FSC)法という分析手法が開発され,実際の成形加工プロセスに相当する,毎秒数十から数千℃の高速冷却速度場でのPPの結晶化挙動を調べることが可能になった.本研究では,FSC法を利用して,疎水化変性CeNFを添加したPPの結晶化挙動を詳細に調べた.図4 (a) は,PP単体およびアルケニル無水コハク酸(ASA)変性CeNFを5%添加したPPを,それぞれ10, 50, 100 K s-1 の速度で冷却した際のFSCカーブである.冷却速度の上昇に伴い,結晶化に伴う発熱ピークが低温側に広がるが,ASA-CeNFを5%添加することで,結晶化が高温で完了した.図4 (b)は冷却速度に対する結晶化ピーク温度であり,1000 K s-1以下の冷却速度域で,ASA-CeNF添加により顕著にPPの結晶化速度が向上することが明らかになった.

京都大学材料プロセス工学研究室

図4(a) PP単体及びASA-CeNF 5%添加PPの冷却過程における結晶化時の発熱挙動, (b) 冷却速度に対する結晶化ピーク温度の変化.