2013年度春期研究発表会シンポジウムU

「粒子帯電と静電気現象:キーファクターの制御に向けて」

(京都大学 松坂 修二)

 2013年度春期研究発表会の第2日目,午前910分から午後440分まで,粒子帯電制御研究会が企画・運営するシンポジウムが開催された。オーガナイザーは,松坂修二(京都大)と松山達(創価大)である。同日,3つの並列セッションのひとつとしてプログラムが進められたので,各部屋に人の出入りがあり,時間によって聴講者数は変動したが,平均すると本シンポジウムの参加者は50名,延べで表すと70名であった。なお,特別講演と依頼講演が各1件,一般講演が14件という構成で進められた。

 特別講演は,北村孝司氏(千葉大名誉教授)にお願いした。講演題目は,「粒子の帯電とイメージングへの応用」であり,特に電子ペーパーについて分かりやすく解説していただいた。電子ペーパーは,ディスプレイの裏面の絶縁性液体あるいは気体の中で,帯電粒子を移動させて,文字や画像を表示するものである。その表示特性は粒子の帯電量に依存し,帯電機構の理解と帯電制御技術の確立が重要という説明であった。

 依頼講演は,小森智裕氏(沖データ)によるものであり,「一成分現像電子写真プロセスのトナー帯電における電荷緩和過程の影響」と題して,実際の電子写真プロセスにおける現象が説明された。

 一般講演は,大学から12件,企業から2件であった。講演件数から考えると,大学主導のように聞こえるが,実際には,電子写真,静電粉体塗装,電気集塵など,企業による応用の方が先行している。本シンポジウムでは,粒子帯電の制御をテーマに掲げたので,ノウハウの多いこの領域では,公開しにくいという事情があったのかもしれない。一方,聴講は大学よりも企業の方が圧倒的に多く,大学における基礎研究や応用研究の進捗状況および最新情報の収集が中心になったと思われる。学会発表は,学術的討論の場という限定的なものではなく,大学のシーズと企業のニーズの情報交換の場でもあり,企業から聴講者が多いということは歓迎すべき状況である。

 さて,朝一番の一般講演は,松山氏(創価大)によるものであり,接触帯電における電荷緩和の放電現象を実験によって捉えた結果が報告された。非常に興味深い内容であり,この分野において,一石を投じたといえる。また,同大学の学生から,振盪カプセル内の粒子群の帯電に関する空間電荷効果の影響と帯電特性評価装置としての有用性が報告された。静電粉体塗装に関しては,ユーテックから,吸引式電荷測定装置を用いた実験結果の説明があり,同志社大(日高研)から,固・気混相シミュレーションによる帯電粒子の挙動を詳細に解析した結果の報告があった。液相では,渡邊氏(京都大)が,メソ多孔性シリカコロイドの表面帯電特性に関する最新の解析結果を報告し,電気集塵の分野では,中島氏(セテック)が,放電プラズマの化学作用を利用したディーゼルPMの浄化性能に及ぼす直流バイアスの極性効果を報告した。また,瑞慶覧氏(神奈川工科大)は,船舶排ガスの浄化を目的としたSO2のミスト化,その集塵特性,SO2の除去率の結果を報告した。

 午後の一般講演では,創価大(松山研)から,2成分帯電法を用いた新しい特性評価法の紹介があった。この応用研究として,米持氏(星薬科大)は,医薬品粉体の帯電特性の実験結果を報告した。粒子の連続衝突帯電に関する基礎研究として,創価大(松山研)から,粒子帯電過程のユニークな計測法の提案とその結果の報告があり,京都大(松坂研)から,振動と電界を利用した微粒子の繰り返し接触帯電の特性評価装置の提案とその結果の報告があった。また,固・気系では,山本氏(広島大)が,アセトン液滴・蒸気雰囲気下におけるシリカ粒子の静電特性とサイクロンの分級性能向との関係を報告し,田之上氏(山口大)は,粒子分散器における帯電の影響を説明した。シンポジウムの最後は,京都大とフロリダ大の共同研究として行われた管内固気二相流の帯電特性評価法を筆者が紹介し,電界による粒子の初期電荷の制御が重要であることを理論検討と実験結果を用いて説明した。

 本シンポジウムでは,「粒子帯電と静電気現象:キーファクターの制御に向けて」が根底にあり,研究グループの特色を活かした新たな帯電特性の解析装置と評価法の開発に関する報告が多かったが,帯電機構,表面物性に関する重要な発表もあり,シンポジウムとして非常に意義深いものであった。

 技術開発には,連続的発展という側面とブレークスルーに代表される非連続的発展という側面とがあり,粒子帯電の制御においては,その両方が常に混在する状況にあるので,今後の研究・開発の動向には目が離せない。

 

 北村氏(特別講演)     小森氏(依頼講演)