粉体工学会創立50周年記念特集

−粒子帯電制御グループ会報告−

 本グループ会は,粒子の帯電に起因する諸現象の解明と技術開発の過程で生じるいろいろな問題の解決のために, 有用な情報を提供しながら,この領域の基盤を固めていくことを目的として2004年に設立された。粒子の帯電のメカニズムを系統的に整理して, 帯電の制御法を確立することは極めて重要であり,本グループ会においても,このことを最重要課題と位置づけて, 「帯電制御」を本グループ会の名称に取り入れた。また,取り扱う対象は,粒子集合体のほかに,気相あるいは液相に分散した固体粒子や液滴も含めており, 一次粒子の帯電についても詳細に検討していきたいので,「粒子」という言葉を核として,「粒子帯電制御グループ会」という名称にした。
 空気輸送,流動層,粉砕などのように,粒子が壁と何度も接触を繰り返しながら帯電していくとき,粒子の表面には多くの電荷が蓄積し, 帯電の影響も現れやすい。例えば,粒子が過度に帯電すると放電が発生し,それに伴って火災や粉塵爆発の危険性も高くなる。 また,帯電した粒子が電界中に入ると,静電気力の働きによって,粒子の運動や挙動にも影響が現れる。帯電粒子が壁に近づくと, ファンデルワールス力のほかに電気影像力も加わるので,壁に強固な粉体層を形成したり,流路を閉塞したりする。 応用技術に目を向けると,電気集塵,静電分離など,帯電の工業的な利用も早くから行われているが,粒子の帯電に起因する問題は, プロセスに応じて対処されているようであり,帯電の基礎や原理に遡って総合的に検討されることは比較的少ないようである。
 しかし,電子写真や静電粉体塗装における近年の技術発展は目覚しく,電子ペーパー,粒子の高精度配列, 静電噴霧等による機能性粒子の生成,トモグラフィー,計測など,先進応用技術の開発も活発であり,粒子の帯電に対して, 非常に厳密な取り扱いが求められるようになったため,粒子の帯電のメカニズムの解明や帯電の制御について議論を行う場が必要になってきた。 このころ,粒子の帯電に関する研究は,それぞれの分野の中で発表されており,分野を超えた交流はあまり活発ではなかったので, 情報の共有化という点においては十分ではなかった。応用分野の違いを意識することなく, 粒子の帯電に関係する研究論文をひとつの特集号としてまとめることができれば,この領域の活性化につながるという観点から, 世界に向けて論文の募集が行われ,最終的に39件の論文が学術雑誌(Powder Technology, Vol. 135−136 (2003))に収められた。 その後,粒子の帯電に関する国際セミナー(NEPTIS12)が開催され,国内および海外から研究者が集まった, その内容はChemical Engineering Science Vol. 61 (2006) の特集号に掲載されている。このときの中堅メンバーの4人 (松坂修二,京都大;松山達,創価大;白川善幸,同志社大;綿野哲,大阪府大)が中心になって,本グループ会を発足させた。
 さて,本グループ会の活動は年に2回であり,通算すると5回の講演会(あるいはシンポジウム)を行ったことになる。 第1回目は,本グループ会の方向性を打ち出すことを目的として開催され,粒子の帯電の基礎(増田教授,京都大), 液滴・イオンの応用(奥山教授,広島大),トナーの帯電(竹内教授,茨城大)という3件の基調講演が行われた(参加者数50名)。 第2回目は,粉体工学会秋期研究発表会のシンポジウムとして開催することになり,2件の特別講演 (池崎教授:慶応大,荷福氏:産総研)を含めて15件の発表が行われた(参加者数75名)。 第3回目は,粉体工学会第41回夏期シンポジウムとして2日間にわたって開催することになり, 2件の特別講演(村田教授:東京理科大,伊藤氏:コニカミノルタビジネステクノロジーズ)を含めて25件の発表が行われた(参加者数61名)。 なお,本シンポジウムの内容は,粉体工学会誌第43巻第3号(2006)の特集号に詳細に記されている。 第4回目は,粉体物性分析測定グループ会との共催で,4件の講演 (鈴木氏:春日電機,東尾氏:トレックジャパン,彼谷氏:ホソカワミクロン,中島教授:北海道大)が行われた(参加者数47名)。 第5回目は,本年度の春のグループ会の活動であり,3件の講演(西村氏:キャノン,三尾氏:けいはんな, 福井氏:ホソカワ粉体技術研究所)が行われた(参加者数48名)。
 本グループ会は,企業,大学,公的機関の研究者および技術者によって構成されているが, 特に,企業からの参加者が多いところに特徴がある。本グループ会の趣旨のひとつとして,現場で抱える問題を抽出し, 共通の認識の中で,解決の糸口を見つけていくという考え方があり,企業からの新たな参加はいつでも大歓迎である。 一般に,他分野への情報の伝達は不十分になりやすいが,「粒子」,「帯電」,「制御」という3つのキーワードによって集まる人々には共通の問題意識があるので, 異なる分野の内容であっても非常に身近なものとして受け入れられるようである。また,視点が違うために新たなアイデアのヒントになることも多い。 本グループ会では,理解しやすい言葉で全員参加型の討論を目指しており,初めて参加される方でもすぐに討論に参加できる雰囲気がある。 発足して3年目を迎えたばかりであるが,毎回多くの参加者によって支えられており,今後も産業界での技術革新と学術的な基礎研究とをうまく融合させて, 粒子帯電制御技術のさらなる展開に貢献できるように進められることを願う次第である。