巻頭言 Foreword

「粒子と静電気−帯電現象の解明と制御への挑戦− 」

 静電気に関係する力学現象の歴史的な記録は,古代ギリシャにまで遡る。紀元前600年頃,哲学者タレスは, 摩擦帯電によって,羽毛が引き寄せられることを発見した。その後,静電気に関係する特筆すべき記録は途絶えるが, 16世紀に入って,静電気現象を自然科学として捉えるようになると,理論的な考察や実験による検証が行われ始めた。 この頃,早くも電気集塵の原型が考案されたが,実用化に至ったのは20世紀に入ってからのことであり,ここまで辿り着くのに, 実に長い年月を要したことになる。
 さて,この半世紀,粉体工学の中で,静電気に関係する事柄を概観すると,気中放電に基づく静電気障害, あるいは粉塵爆発などの災害に対する防止技術が第一に挙げられる。また,帯電は表面で生じる現象であり, 粒子径の減少に伴って比表面積が増加するので,粒子は静電気力の影響を受けやすくなる。このことを利用して, 各種応用技術が開発された。静電気に係わる諸現象の解明と応用技術の開発は,粉体工学と関係が深いが, 粒子集合体あるいは粒子分散システムを含めて,粒子と静電気を核とする討論の場が十分に確保されている訳ではなかった。 このような背景を踏まえて,2年前,粒子帯電制御グループ会が発足した。粒子と静電気に関係すれば,特に制限を設けることなく, 話題として採り上げるという形がとられている。グループ会の名称の中に,制御という言葉が含まれるが,帯電の制御はそれほど簡単ではない。 したがって,その実現に向けて,静電気現象あるいは帯電のメカニズムの解明に取り組むことになる。
粒子の接触帯電のメカニズムについて問われると,ある程度まで説明は可能と言えるが,条件および影響因子の採り上げ方によっては, 答えに窮することも多い。このような基礎的な問いかけは,いろいろな場面で共通して抱える問題点の抽出に有効であり, 真の解決への近道でもある。持ち寄られた個々の事実や結果を多面的に検討することによって,無理なく確実に体系化を進めていくのがよいと考える。
産業界に目を向けると,不確定要素をできるだけ取り除いて,高度な粒子操作技術の開発や,先端技術への応用が図られており,  静電気あるいは静電気力を利用した製品の開発も活発に行われている。既に,社会や産業界の必需品として地位を確立したものから, 次世代の製品として位置づけられるものまで様々である。電子写真や電子ペーパーなどに代表される粒子の運動・挙動の制御, 電気移動度の違いを利用した分級,気相系粒子の生成制御,微小液滴を発生させる静電微粒化, 帯電量分布の計測,粒子流量計測,トモグラフィーなど,応用範囲は非常に広い。また,トナーや粉体塗料など, 帯電を目的とした粒子の開発も日進月歩である。粒子の帯電は,コロナ放電を利用する場合もあれば,摩擦を利用する場合もある。 また,帯電だけではなく,除電の技術も忘れてはならない。対象とする粒子は,ナノからミリまで幅広く,材料は有機,無機と多岐にわたる。
 今回,第41回夏期シンポジウムは,「粒子と静電気に係わる最近の研究開発と応用技術」と題して, 粉体工学会・粒子帯電制御グループ会の企画のもとに開催され,多くの方々の参加によって,予想をはるかに超える盛り上がりを見せた。 異業種間での専門用語の壁を取り除き,平易で分かりやすい全員参加型の討論を目指した結果, 各セッションにおいて共通する問題点が抽出された。討論を進める中で,ある程度の方向性が得られたものもある。 本誌に掲載されている「総合討論記録」は,粒子と静電気に関係する現状の問題を理解し, 今後の研究・開発の動向を探るうえで,大いに参考になるであろう。
粒子と静電気を核とする討論の場が確保されて2年が経過し,ようやく土台が整った。 これから,個々の問題を解決しながら,帯電の制御に向けて展開していくことになる。

粉体工学会誌 43巻 3号 松坂修二