物理化学1(化学工学)
物理化学1(化学工学)
Problem7.18 解説
1.問題の概要
問題7.18はタービンのなす仕事とエネルギー収支・エントロピー収支に関する問題である。完全に断熱されたタービンがなす仕事はタービン前後のエンタルピー差に等しいことから、水蒸気の流量が求められる。また、理想的なタービン、すなわちエントロピー変化がないタービンの仕事を計算することによって、タービン効率を求めることができる。
2.解答
まずはSteam Tableを用いた解答を説明する。
タービン入口(状態1)の過熱水蒸気は2400kPa,500℃である。Steam Tableより、状態1における水蒸気1kg当たりのエンタルピー、エントロピーは
H1=3462.9kJ, S1=7.3439kJ/K
である。
タービン出口(状態2)は20kPaの飽和水蒸気(Saturated Vapor)であり、これは沸点の水蒸気 (Quality = 1.0)であることを意味している。よって、状態2における1kg当たりのエンタルピー、エントロピーはSteam Tableより
H2=Hvsat=2609.9kJ, S2=Svsat=7.9094kJ/K
である。
タービン前後のエネルギーバランスは水蒸気流量をm [kg/s]とすると
m(H2ーH1)=ー853.0m=Ws=ー3500kW
となる。これより、m=4.103 kg/s
次にタービン効率を計算する。理想的なタービンでは、状態1、2のエントロピーは等しい。すなわち、この場合の状態2のQualityをxとすると、
S1=xSvsat+(1ーx)Slsat
である。状態2の圧力における飽和水のエンタルピー、エントロピーはSteam Tableより、
Hlsat=251.453kJ, Slsat=0.8321kJ/K
なので、理想的な水蒸気タービンにおける出口のQualityはx=0.920と計算でき、出口におけるエンタルピーH2‘は
H2‘=xHvsat+(1ーx)Hlsat=2421.5 kJ/kg
である。このときのタービンのエネルギーバランスは
m(H2‘ーH1)=4.103×(2421.5ー3462.9)=ー4273.2kW=Ws’
より、理想的なタービンの出力は4273.2kWと計算できる。したがって、タービン効率は
η=3500/4273.2=0.819
である。
次にモリエ線図(HS線図)を用いた解答を説明する。
タービン入口(状態1)の過熱水蒸気は2400kPa=24bar,500℃である。モリエ線図上の20barと30bar等圧線の間を内挿し、500℃の等温線との交点から状態1における水蒸気1kg当たりのエンタルピー、エントロピーを読み取る。(少なくとも目分で目盛りの1/10まで読み取る。あるいは定規で長さを測ってもよい。)
H1=3460kJ, S1=7.35kJ/K
である。
タービン出口(状態2)は20kPaの飽和水蒸気であり、0.2barの等圧線と気液境界線との交点のエンタルピー、エントロピーを読み取ると、
H2=2610kJ, S2=7.90kJ/K
程度の値となる。
これより、水蒸気の流量m[kg/s]は
m=ー3500kW/(H2ーH1)=4.12kg/s
となる。Steam Tableならより精度よく値が求められるが、モリエ線図から大体の値を得る場合の有効数字は2〜3桁程度である。
また、等エントロピー過程でのエンタルピー変化をモリエ線図上で表すと、状態1からY軸に平行な線となる。この線と0.2barの等圧線との交点を求めると、等エントロピー過程での理想的なエンタルピー変化(=軸仕事量)が得られる。
図中、0.2barの等圧線は2相共存領域に入るので、エンタルピーとQualityの双方が求まる。この点を読むと
H2‘=2420 kJ/kg, x’=92%
が得られ、タービン効率は
η= (H2ーH1)/(H’2ーH1) =0.817
となる。
モリエ線図を用いた解答では、(図から読み取りはしたが)エントロピーやQualityの値は用いていない。精度が高いとは言えないが、入口と出口の温度・圧力の変化から簡単にエンタルピー変化(軸仕事量)やタービン効率が求めることができる。