物理化学1(化学工学)

 

Problem5.8 解説

1.問題の概要

 問題5.8は『お湯を沸かす』ことを題材にした系と熱源のエントロピー変化の計算に関するシンプルな問題である。また、不可逆過程ではエントロピー変化の総和が正になることも確認できる。さらに、可逆的な加熱とはどのようなものかを問うものである。演習とは異なり熱容量が温度の関数として問題を解く。


2.解答

(a) 熱源の温度を100℃とする。このときの水と熱源のエントロピー変化を計算する。

 m[mol]の物質について温度変化(T0T[K])にともなう定圧化のエントロピーの変化は以下の式で計算できる。

 

熱容量が一定の場合、上式は

 

となる。熱容量が温度により変化するとして水1kgを0℃から100℃まで加熱したときのエントロピー変化を計算すると、

 

となる。加熱にともないエントロピーは増加している。一般的に温度の上昇とともに物質のエントロピーは増加する。

 次に熱源のエントロピー変化を計算する。熱源は温度が一定であるので、エントロピーは以下の式で計算できる。

 

 ΔQは受熱の場合が正の値となり、放熱の場合は負の値となる。この場合は水が加熱されているので、熱源から見ると放熱であり、ΔQは負の値である。|ΔQ|は水が受取った熱量に等しい(エネルギー保存則(第一法則)については可逆・不可逆に関係なく成立している)ので、


これより、熱源のエントロピー変化は

 

となる。したがって、総エントロピー変化は

 

となり、正の値であるので、この過程は不可逆過程であることがわかる。


(b)50℃の熱源と100℃の熱源を2つ用いた場合のエントロピー変化を求める。水が0℃から50℃になるまでは50℃の熱源を用いて加熱し、50℃から100℃になるまでは100℃の熱源を用いて加熱するが、水のエントロピー変化の計算には熱源の温度は関係なく(a)と全く同様である。


 熱源のエントロピー変化は50℃までの加熱に要した熱量と、50℃から100℃までの加熱に要した熱量を別個に求めて計算すればよい。

 

したがって、総エントロピーの変化量は

 

となる。やはり不可逆過程であるが、(a)よりは総エントロピーの増加量が減少したことが分かる。


(c)  (a)と(b)をふまえてエントロピー変化が0となるように水を加熱するにはどうしたらよいかを考える。

 比較的多くの学生のレポートに次のような解答がある。エントロピー変化が0になる条件は

 

すなわち

 
  

これより、上式が成立する温度を求めると、

 

となり、47.5℃の熱源を用いて加熱する。

 総エントロピーは確かに変化しないので、正しく見える。しかし、熱力学第2法則に立ち返ると、47.5℃の熱源から47.5℃以上の水へは熱が移動しないので、100℃まで加熱することは不可能である。実は上記の計算式にはトリックがあり、47.5℃までは総エントロピーが増加、47.5℃以上では総エントロピーが減少し、全体として総エントロピーが変化しないように見えているだけである。当然、瞬間的にも総エンタルピーが減少することはないので、この解答は誤りである。

 正しい解答は2通りある。その1つは、(b)おいて2個の熱源を用いた場合にエントロピーの増加量が減少したように、0℃から100℃までの無限個の熱源を用いて可逆的に加熱するというものである。 例えば1℃から100℃まで100個の熱源を用いて加熱した場合(以下簡単のため、熱容量は一定=4.184J/gとする。)、以下のようにエントロピーの増加はわずかになる。

 

 

 

さらに、0.1℃から100℃までの1000個の熱源を用いて加熱した場合は

 

となる。すなわち、水温に等しい温度の熱源を用いて加熱していくのが、可逆的な加熱方法である。

 もう一つは2つ以上の熱源を用いてカルノーエンジンを動作させ、生成した仕事で逆カルノーエンジンを動作させて水を加熱するという方法である。やり方は無限にあるが、例として100℃の熱源と0℃の熱源の2つで考える。加熱対象の水を温度が変化する熱源と考え、以下のようなシステムを構築する。


 この場合、可逆サイクルのみを用いているので総エントロピーは増加しない。確認のため計算をおこなっておく(熱容量は一定とする)。水温をT[K],熱源1の温度をTH [K] (=373.15 K)、熱源2の温度を TC [K] (=273.15K)とするとき、水温が TCTH まで変化するときの各熱量|Q|は以下のように計算できる。

 

これより、各熱源のエントロピー変化は

 

となる。よって、総エントロピーの変化は

 

以上、本方法によりエントロピーを増加させずに水を0℃から100℃まで加熱できることがわかる。


3.まとめ

 温度変化にともなうエントロピー変化の計算式、熱源のエントロピー変化の計算式はしっかり理解・記憶しておくべきである。また、エントロピー変化の総和は0(可逆のとき)か正(不可逆のとき)であり、一瞬といえども負の値にはならないことも念頭におけば、つまらない計算ミスにすぐ気付く。ただし、個々の系、熱源についてはエントロピー変化は負の値もとりうる。


ページトップに戻る