物理化学1(化学工学)
物理化学1(化学工学)
Problem4.19 解説
1.問題の概要
問題4.19は理論火炎温度(断熱下において、空気で完全燃焼を行ったときの燃焼ガスの温度。断熱燃焼温度ともいう)を求める問題である。(a)は25℃のエチレンと燃焼反応に必要な量論比の酸素を含む空気を、断熱下において完全燃焼した後の温度を計算する問題である。実際は不完全燃焼を避けるために量論比よりも過剰の空気を用いて燃焼反応を行うが、(b)は25%過剰、(c)は50%過剰、(d)は量論比の2倍の空気送って完全燃焼反応を行った後の温度をもとめる。また、(e)は25℃のエチレンを500℃に与熱した50%過剰の空気で燃焼したときの理論火炎温度を計算する。
これらの理論火炎温度に関する問題は、以下のことが理解できていれば解くことができる。
1.空気は21%の酸素と79%の窒素の混合ガスである。
2.定圧・断熱反応であり、仕事は行わないので、反応前と反応後のエンタルピーは等しい。
3.燃焼前、燃焼後のエンタルピーは以下の式、すなわち顕熱と25℃における標準生成エンタルピーの和で計算できる。
ni:成分iのモル数
(理論火炎温度を求めるときは燃料1モルを基準とするが、何モルを基準にしても理論火炎温度は同じである。)
ΔH°f298,i:成分iの標準生成エンタルピー(298.15K)
R:気体定数(単位は標準生成エンタルピーの単位/K)
Cp,i:成分iの定圧モル熱容量(単位は標準生成エンタルピーの単位/K)
Ai ,Bi ,Ci ,Di:成分iのCp,i/Rを計算するためのパラメータ(CとDはいずれかが0)
Ti:成分iの温度(通常は各成分とも同じ温度である。)
理論火炎温度を計算するとき、熱容量が温度の関数である場合には、温度Tに関する3次方程式を解くことが必要となる。解析的に解くよりも、計算機を用いて試行法によってもとめた方が簡単である。
2.解答
解答用に計算用ワークシートを作成した。計算用ワークシートは以下のアドレスにある。(右クリックしてリンク先を保存)
(a) 通常の理論火炎温度を求める問題である。
エチレンと酸素による反応式は
C2H4 + 3O2 → 2CO2 + 2H2O
であるので、エチレン1molの完全燃焼に対して3molの酸素が必要となる。また、純酸素ではなく空気で燃焼するので、酸素の量に応じて3×79/21=11.29 molの窒素も供給される。反応後は2molの二酸化炭素と水蒸気が生成し、反応に関与しない窒素がそのまま残存する。上式を用いて反応前と反応後のエンタルピーを計算し、その差が0になる温度を探索すればよい。計算用ワークシートの使用法についてはリンクを参照とするが、セルP9~P11が同じになるようにセルP10およびP11には=P9を入力しておき、セルG18の反応前後のエンタルピー差が0になるようにセルP9の値をゴールシークに変化させる。(反応成分の選択の際は空気ではなく、酸素と窒素を別々に選択すること。)
解答 2533.5 K
(b)25%過剰の空気を用いた場合
25%過剰であるので、酸素量が3×1.25=3.75mol、窒素量は3.75×79/21=14.11molである。また、反応後は未反応の酸素が0.75mol、反応に関与しない窒素が14.11mol残存する。あとは(a)と全く同様である。計算用ワークシートにより計算した結果を以下に示す。
解答 2198.6 K
(c) 50%過剰の空気を用いた場合
50%過剰であるので、酸素量が3×1.5=4.5mol、窒素量は4.5×79/21=16.93molである。また、反応後は未反応の酸素が1.5mol、反応に関与しない窒素が16.93mol残存する。
解答 1950.9 K
(d) 100%過剰の空気を用いた場合
考え方は(b)(c)と全く同様である。
解答 1609.2K
空気過剰量の増加とともに理論火炎温度が低下することが分かる。
(e) 50%過剰の空気を500℃に予熱して用いた場合
50%過剰の空気を用いるので、反応前・反応後の物質量は(c)と同じである。
空気のみ500℃に加熱されている(エチレンは25℃)ので、反応系のエンタルピーは空気の顕熱を考慮しておく必要がある。あとはこれまでと同様に反応前後の総エンタルピーの差が0になる温度を探索すればよい。
解答 2282.5 K
3.まとめ
以上のように、理論火炎温度の計算は量論関係とエンタルピーの計算方法を理解していれば難しいことはない(計算は面倒だが)。また、基本的な条件(燃料・空気とも25℃、量論比の空気を用いた場合)での理論火炎温度は2000K以上となることが多い。計算結果が数百Kのオーダーであった場合は計算ミスを疑うべきである。あと、上気の計算で用いた熱容量の計算式は一部その適用温度範囲外にあることも記載すべきである。
※解答しか記載されていないレポートが散見された。
どのように計算したのか熱容量や生成エンタルピーの出典が不明なので、評価はおこなわない。