物理化学1(化学工学)

 

Problem4.13 解説

1.問題の概要 

 問題4.13は潜熱、すなわち相変化のエンタルピーに関する問題であるが、単純にエンタルピーを求めるのではなく、測定されたメチルエチルケトンの蒸発エンタルピーを用いて第2ビリアル係数Bおよび蒸気のモル体積VVを計算させる問題となっている。問題文にはメチルエチルケトンについて飽和蒸気圧Psatと温度Tの関係、設定温度(75℃)における蒸発潜熱ΔHlv、および液状態におけるモル体積Vlが与えられている。ビリアル状態方程式は第2項までとは記載されていないが、問題文中に与えられた値から第3ビリアル係数以降を求めるのは不可能であるので、以下のように第2項までのビリアル状態方程式で表せるとする。

   
           (1)


2.解答

  解答の手順を説明する。式(1)中のTは与えられており(75℃=348.15K)、PSatは問題文中の式と温度から計算することができるので、蒸気のモル体積Vvが求まればBを計算することができる。Vvを求めるにはクラペイロンの式(蒸発エンタルピーと蒸発時のモル体積変化の関係)を利用する。


①75℃における飽和蒸気圧を計算する。

 

なお、上式のkPa, K等は Psat , Tの単位を表している(厳密にいうと、指数関数・対数関数には単位を含んではいけないので、1kPa, 1Kで割っている)。 これより、Psat = 87.396 kPaとなる。


②Clapeyronの式(教科書4.11)より、相変化におけるエンタルピー変化ΔHlvと体積変化ΔVlvは以下のように関係づけられる。

 
                                            (2)

ここで、

 

なので、T=348.15K(=75℃)および①で求めた Psat=87.396 kPa を代入すると、dPSat/T=2.8731 kPa/K が得られる。


③式(2)より、ΔVlvが以下のように計算できる。

 

    =31.591 J/kPa=3.1591×10-2 m3/mol


④ΔVlvVvVlより、Vv =3.1687×10-2 m3/mol となるので、PSat,Vv,T を式(1)に代入してB(T)を計算すると、

 

    =ー1.3706×10-3 m3/mol =ー1370.6 cm3/mol

となる。なお、各計算過程で端数処理をせずに通しで計算を行うと、

 B =ー1369.6 cm3/mol

となる。


3.講評

 何をしたらよいのかよく分からない問題であるが、蒸発エンタルピーと温度と圧力の関係から気相のモル体積を求める問題と分かれば、あとはクラペイロンの式を用いるのに必要な値を求めていくだけである。しかし、単位の換算には最新の注意を払うこと。とくに熱・仕事量の単位Jを体積と圧力の積で表すとm3・Paであることに(知っているはずだが・・・)注意すること。


   1J=1m3・Pa=10cm3・bar=1000cm3kPa


また、加減算は単位が同じ場合のみ演算が可能であるので、しっかりと確認してほしい。



4.補足

 純物質の2相共存状態では自由度が1であるので、温度、圧力、モル体積、モルエンタルピー、モル内部エネルギーなど状態量の内、1つ決めてしまうと、他も全て決まってしまう。すなわち、気液共存状態では圧力が温度のみの関数で表現できる。同様にエンタルピーもモル体積も温度のみの関数で表せるので、蒸発エンタルピー、蒸発による体積変化も温度のみで決まる。この問題では測定した蒸発エンタルピー(潜熱)からビリアル定数を計算したが、ビリアル定数は温度のみの関数であるので、逆に温度からビリアル定数を算出し、蒸発の体積変化、蒸発エンタルピーを計算することもできる。(気液共存状態における液体のモル体積も温度のみで決まる。)



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