物理化学1(化学工学)

 

Problem3.38 解説

1.問題の概要 

 問題3.38は気液平衡状態における各種物質のモル体積(飽和蒸気・飽和液双方)を計算する問題である。3章で説明した三次元の状態方程式(van der Waals式, Redlich/Kwong式, Soave/Redlich/Kwong式, Peng/Robinson式)を用いてモル体積を計算し、これらの状態方程式が気体だけではなく、液体のPVT関係も表現できることを理解する。また、三次の状態方程式を用いて計算した値と、臨界物性と偏心因子だけで計算する一般的な相関式から計算した値との比較を行う。

 三次の状態方程式からモル体積を計算するには、三次方程式を解く必要があるが、解の公式が非常に複雑なため、逐次計算法を用いて解く。



2.解答

  問題は(a)から(t)まであるが、解法は全て同じであるので、詳細は(t)のみについて説明し、あとは解答のみを示す。

 教科書Appendix B Table B.1より二酸化硫黄の臨界物性、偏心因子を読み取ると、

 Tc = 430.8K, Pc = 78.84bar, Vc =122 cm3/mol,

 Zc =0.268, ω = 0.245

である。これより、設定条件110℃(383.15K), 35.01barにおける換算温度、換算圧力はTr = 0.8894, Pr = 0.4441となる。

 なお、この解答では体積・圧力の単位としてcm3, barを用いて計算する。これに合わせて気体定数Rは83.14cm3bar/(mol・K) を用いる。



(1)気相のモル体積計算

気体についての三次の状態方程式の一般型(式3.49)

 

を用いる。Table 3.1よりRedlich/Kwong式ではσ=1, ε=0であるので、上式を逐次型にした

 

を用いて逐次計算を行う。ここで、

 
 
 

である(単位に注意すること)。初期値としてV0=RT/P=909.89cm3/molを用いると、以下のように解が収束していく。10回程度の計算でほぼ収束したとみなせ、最終的にはV=669.5 cm3/mol, Z=0.7358 となる。




(2)液相のモル体積計算

 液体についての三次の状態方程式の一般型(式3.55)

 

を用いる。気相の計算と同様に上式を逐次型にしてRedlich/Kwong式のパラメータを代入した

 

を用いて逐次計算を行う。ここで、a(T), bは気相のモル体積計算に用いたものと同じである。初期値としてV0b=39.360cm3/molを用いると、以下のように解が収束していく。収束に到達するまで30回の逐次計算が必要だが、最終的にはV=74.8cm3/mol, Z=0.0822 が得られる。





(3) 一般相関式(Pitzer式、Racket式)を用いてモル体積を求める。

気相のモル体積の計算にPitzer式を用いると、式(3.61),(3.63)より

 

B0, B1を式(3.65),(3.66)を用いて計算すると

 

となる。よって、Z = 0.7699が得られる。

よって、V =ZRT/P= 700.5 cm3・mol-1


液相のモル体積の計算にRacket式を用いる。式(3.72)より臨界状態における値を代入すると


となる。


以上より、RK式と一般相関式を比較すると、気相のモル体積はほぼ同じ値が得られているが、液相については20%程度の差が生じている。(a)~(t)の解答を以下に示す。



3.講評

 かなり面倒な問題であるが、比較的多くの学生が提出していた。しかし、一般相関式よる値を計算していないものや、まだ単位の換算ができていないものが多数おり、Vの初期値(理想気体の状態方程式によるモル体積)の計算でいきなり躓いている全く同じ間違いのレポートが1/4を占めていた。


4.補足

 液相のモル体積の計算はなかなか収束しない。電卓による計算は大変だったと思う。そこで、解答用のエクセルファイルを作成した(ダウンロード)

 使用法は設定条件(温度・圧力)を入力(単位はK, bar)し、物質名をリストから選択するだけである。また、値があればビリアル定数を入力する。あとはワークシート真ん中のバーをクリックすると Virial式と三次の状態方程式(van der Waals(vdW)式, Redlich/Kwong(RK)式, Soave/Redlich/Kwong(SRK)式, Peng/Robinson(PR)式)、および一般相関式(Pitzer式、Reckett式)により計算されたモル体積が表示される。計算したい物質がリストにない場合は物性表のワークシートに物質とその臨界状態の物性を入力すればよい。もっと簡単に言うと黄色の部分に値を入力し、グレーのバーをクリックすれば、水色の部分にモル体積が表示される。

 このエクセルファイルを用いればProblem3.39,40についても解答が得られる(入力値の単位には注意すること)ので、各自が行った計算と比較するとよい。



図 各種状態方程式によるPVT関係計算用エクセルファイル

(上図をクリックするとファイルがダウンロードされます。)



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