物理化学1(化学工学)
物理化学1(化学工学)
Problem3.35 解説
1.問題の概要
問題3.35は理想気体の法則が成立しない条件における水蒸気の圧縮係数Z、モル体積Vを計算する問題である。実在気体の状態方程式は多くの研究者によって提案されているが、この問題については(a)実験結果に基づく第3項までのVirial式、(b)相関式を用いて計算した第2ビリアル係数を用いて第2項までのVirial式による計算を行い、(c)実測値(Steam Table)と比較する。
2.解答
教科書Appendix B: Table B.1より水の臨界温度Tc, 臨界圧力Pc, 偏心因子ωを読み取ると
Tc = 647.1 K, Pc = 220.55bar, ω = 0.345
これより、問題の設定条件である250℃(523.15K), 1800kPa=18barにおける換算温度、換算圧力はTr = 0.8085, Pr = 0.08161である。
また、第2・第3ビリアル定数として実験値から以下の値が得られている。
B = −152.5 cm3mol-1, C=−5800 cm6mol-2
以降、体積・圧力の単位としてcm3, barを用いて計算する。これに合わせ、気体定数Rは83.14cm3bar・mol-1K-1) を用いる。
(a)Virial式による計算
式(3.40)よりビリアル式は
で表され、P, T, R, B, Cが与えられているので、上式はVの三次方程式になる。これを解析的に解くことでVの値が得られるが、三次方程式をすぐに解くことができない場合は上式を以下のように変形する。
右辺に仮定したVを代入し、次候補となるVを計算する。これをVがほぼ変化しなくなる(収束する)まで繰り返すことにより、Vが計算できる(逐次代入法)。例えば最初の候補値として理想気体の状態方程式が成立するときの体積
V= RT/P =2416 cm3mol-1
を選ぶと、次のようにVの値が収束していく。
このように、数回の計算で収束し、V = 2250 cm3mol-1、Z = 0.9311が求められる。(三次方程式を解いても同様の解が得られる。)
なお、3次式を解くことを強調するため、講義では説明しなかったが、
を用いると、収束計算せずにZ=0.9319, V=2252cm3mol-1 が得られる。先の値と完全には一致しないが、これは無視した第4項目以降が異なるためである。(実はこちらの方が精度よく計算できる。)
(b)Pizerの相関を用いる方法
第二ビリアル定数をPizerの相関を用いて計算する。式(3.61),(3.63)より
B0, B1を式(3.65), (3.66)を用いて計算すると
これより、Z = 0.9387 、V =ZRT/P= 2268 cm3mol-1
(c)実測値(Steam Table)
教科書Appendix F:Table FはSteam Tableと呼ばれ、これを用いて所定の圧力・温度に対する飽和水・飽和水蒸気および過熱水蒸気の各種状態量を読み取ることができる。蒸気機関(古くさく聞こえるかもしれないが、現在も発電所等さまざまなところで使用されている)はこの値を用いて運転・制御されている。蒸気機関におけるこの表の使用方法は後半の講義で述べる予定だが、ここでは問題の設定条件(圧力・温度)における比容積(密度の逆数)を読み取るのに用いる。
Table 2Fは行が圧力、列が左から沸点の水(飽和水)、沸点の蒸気(飽和蒸気)、沸点以上の各温度における水蒸気の特性値を表している。まず、左端の列から設定圧力である1800kPaの行を探す。P.735にそのデータが記載されており、圧力の下に小さく沸点が記載されている。これを読むと207.11℃であり、設定温度はこの値よりも大きいので、この条件では過熱水蒸気といえる(沸点よりも高温の水蒸気を過熱水蒸気と呼ぶ)。次にこの圧力において、設定温度250℃のデータを探す。表の上部(P.734)に温度が記載されているので、250℃の列を見ると上からV, U, H, Sの4つの値が記載されている。これらはそれぞれ単位重量あたりの水の体積(比容積)、内部エネルギー、エンタルピー、エントロピーを示している。ここでは一番上のVの値のみを読み取ると、124.99である。しかし、このページには単位が記載されていない。単位は Table F.1の先頭のページ(p.716)に記載されており、比容積の単位はcm3g-1 である。この値をモル体積に変換するには分子量[g・mol-1]との積を求めればよい。水の分子量18.015を掛けるとV=2252cm3mol-1 となる。また、Z=PV/RT= 0.9318 //
以上より、(a)と(c)は0.1%以内の差でよく合致していることがわかる。(c)は完全な実測値であり、(a)も実測値からビリアル定数を決定しているので当然ともいえるが、第3項までのビリアル式で実在気体のモル体積を十分な精度で計算できることを示している。また、(b)のPizerの相関のように、実測値を用いず臨界点と偏心因子からビリアル定数を計算した場合や先週の演習(3.35改)で行ったLee-Kesleeの相関表を用いた場合でも、1%以下の誤差範囲内で実測値とよく一致することが確認できる。