物理化学1(化学工学)
物理化学1(化学工学)
1.問題の概要
問題3.32は理想気体の法則が成立しない条件におけるエチレンの圧縮係数Z、モル体積Vを計算する問題である。実在気体の状態方程式は多くの研究者によって提案されているが、この問題については(a)実験結果に基づく第3項までのVirial式、(b)Pizerの相関を用いて計算したパラメータを用いたVirial式による計算と各種状態方程式(c)RK式、(d)SRK式、(e)PR式による計算を行う。
2.解答
教科書Appendix B: Table B.1よりエチレンの臨界温度Tc, 臨界圧力Pc, 偏心因子ωを読み取る。
Tc = 282.3 K, Pc = 50.40 bar, ω = 0.087
これより、問題の設定条件である25 ℃(298.15 K), 12 barにおける換算温度、換算圧力はTr = 1.056, Pr = 0.2381である。
また、第2・第3ビリアル定数の実験値として問題に次の値が与えられている。
B = −140 cm3mol-1, C=7200 cm6mol-2
以降、体積・圧力の単位としてcm3, barを用いて計算する。これに合わせ、気体定数Rは83.14 bar cm3mol-1K-1 を用いる。
(演習問題)Lee/Kesler表を用いた計算
Tr , Pr 近傍のZ0, Z1を読み取る。
Tr = 1.05, Pr = 0.200 → Z0 = 0.9401, Z1=-0.0054
Tr = 1.05, Pr = 0.400 → Z0 = 0.8743, Z1=-0.0092
Tr = 1.10, Pr = 0.200 → Z0 = 0.9485, Z1=0.0007
Tr = 1.10, Pr = 0.400 → Z0 = 0.8930, Z1=0.0038
これらの値を用いて内挿すると、 Z0 = 0.9288, Z1=-0.00523
したがって
Z= Z0 + ωZ1=0.9284
V= ZRT/P =1918 cm3mol-1
(a)Virial式による計算
式(3.40)よりビリアル式は
で表され、P, T, R, B, Cが与えられているので、上式はVの三次方程式になる。これを解析的に解くことでVの値が得られるが、三次方程式をすぐに解くことができない場合は上式を以下のように変形する。
右辺に仮定したVを代入し、次候補となるVを計算する。これをVがほぼ変化しなくなる(収束する)まで繰り返すことにより、Vが計算できる(逐次代入法)。例えば最初の候補値として理想気体の状態方程式が成立するときの体積
V= RT/P =2065.7 cm3mol-1
を選ぶと、次のようにVの値が収束していく。
このように、数回の計算で収束し、最終的にV = 1919 cm3/mol、Z = 0.9290が求められる。(三次方程式を解いても同様の解が得られる。)
(b)Pizerの相関を用いる方法
第二ビリアル定数をPizerの相関を用いて計算する。式(3.61),(3.63)より
B0, B1を式(3.65), (3.66)を用いて計算すると
これより、Z = 0.9316 、V =ZRT/P= 1924 cm3/mol
(c)〜(e)種々の状態方程式による計算気
気体についての三次の状態方程式の一般型(式3.49)
を用いる。
(c)Redlich/Kwong式
Table 3.1よりRedlich/Kwong式ではσ=1, ε=0であるので、上式を逐次型にした
を用いて逐次計算を行う。式(3.45)(3.46)より
であり、 Table 3.1よりRK式では
と与えられているので、
となる(単位に注意すること)。初期値としてV0=RT/P=2065.7 cm3mol-1を用いると、以下のように解が収束していく。数回の計算でほぼ収束したとみなせ、最終的にはV=1917 cm3mol-1, Z=0.9278となる。
(d)Soave/Redlich/Kwong式
Table 3.1よりSoave/Redlich/Kwong式はRK式とσ, ε ,Ψ, Ωは同じ値を用いる。異なるのはa(T)を式(3.45)
を用いて計算するところだけである(Table 3.1脚注)。これを用いて計算すると
となり、(c)RK式と同様に初期値としてV0=RT/P=2065.7cm3mol-1を用いて式(3.49)を逐次計算していくと、やはり数回の計算でほぼ収束したとみなせ、最終的にはV=1918 cm3mol-1, Z=0.9285となる。
(e)Peng/Robinson式
Table 3.1よりPeng/Robinson式では式(3.49)(3.45)(3.46)のパラメータに
を用いる。RK式, SRK法と同様に逐次計算をおこなうと、やはり数回の計算でほぼ収束したとみなせ、最終的にはV=1900 cm3mol-1, Z=0.9201となる。
3.講評
かなり面倒な問題であるが、Lee/Keslerの相関表を用いてもほぼ正確な値が求められるとが分かったであろう。
4.補足
(a)のビリアル定数を用いた計算は実測値とみなせる(実測値からビリアル定数をもとめているので)。これに対して、Pitzerの相関式や各種状態方程式から計算した値はほとんど誤差がないことが分かるであろう。
Problem3.32 解説