物理化学1(化学工学)
物理化学1(化学工学)
Problem2.29 解説
1.問題の概要
問題2.29は定常流れ系の物質収支式、エネルギー収支式からノズル出口の流速と径を計算する問題である。ノズルの長さは25cmで完全に断熱されているとする。作動流体である水蒸気についてノズル前後の全エンタルピー変化量および運動エネルギー変化量を計算できれば簡単に求めることができる。問題ではノズル入口(状態1)と出口(状態2)における温度、圧力、単位質量当たりのエンタルピー、体積が与えられている。また、タービン入口の内径や線速度も与えられている。
2.解答
与えられている状態1,2における状態関数を以下にまとめる。
状態1
325 ℃, 700 kPa, H1 =3112.5 kJ/kg, V1 =388.61 cm3/g,
D1 =25 cm, u1 =30 m/s
状態2
240 ℃, 350 kPa, H2 =2945.7 kJ/kg, V2 =667.75 m3/kg
これらの値からタービンの仕事率を計算するのであるが、定常流れ系のエネルギー収支式(2.32a 単位流量当たり)より
ここで、位置エネルギーは無視し、断熱かつ軸仕事はないので、
よって、与えられた数値を代入すればノズル出口での線速度 u2が得られる。
単位に注意すると
u2=[−2×(2945.7−3112.5)×103 +302]0.5=578 m/s
次に出口の径であるが、定常流れ系の物質収支式より
よって、
3.講評
非常に簡単な問題であるが、例年、正確な解答が得られる学生はあまりいない。特に質量流量を計算せずに体積流量一定で計算しているものが多い。また、運動エネルギーとエンタルピー単位換算ができていないものも多い。エンジニアリング計算は数値および単位が全てであり、計算過程が正しくても数値や単位に誤りがあれば全く意味がないことを心に留めておいて欲しい。計算過程が評価されるのは試験の時だけで、社会に出たら報告する機会すらなく評価の対象にはならない。
4.補足(有効数字)
有効数字に関しては、計算結果のみならず計算過程においても非常に厳密な取り扱いが求められる。これは必要のない桁まで計算して計算負荷を上げることや、必要な桁を省いてしまうことにより誤差が生じることを避けるためである。有効数字は計算の過程で増加することはあってはならないが、問題文に与えられている数字が2桁だからといって2桁にしないといけないということはない。設問に与えられている「きりのいい数字」はその後に無限に0が続くと考えてよい。また、計算時の有効数字の変化に関しては、基本的に
加減算:計算に用いる最小桁以降はカットする。
(ほぼ同じ数字の計算では大幅に有効数字が減少する場合もある。)
乗除算:有効数字は変化しない(少ないものに合わせる)。
と考えて計算を進め、答えを出す際には工学的に有効と考えられる数字のみを答えるようにすべきである。
例:温度 440.1234 K こんな精度の温度計はない。数字にも意味がない。
反応時間 9.523 s 100m競争か!
蒸留塔高さ 10.123m
(もちろん、ケースバイケースである。また、答えるべき有効数字が記載されている場合もある。)